車の血液エンジンオイルのお話し!「SPグレード」について!エンジンオイルは品質が重要です!

 車のメンテナンスの中で一番頻度が高いのがエンジンオイルの交換です。エンジンオイルはエンジンを動かす上で無くてはならない存在であり、車にとっては血液の様な存在です。

 エンジン下部にはオイルパンが取り付けられていて、ここにエンジンオイルが溜められています。これをポンプで吸い上げて、エンジン内(各パーツ)にオイルを循環させているのですが、エンジンの寿命を短くするのも長くするのもエンジンオイルにかかっていると言って過言ではありません。そんなエンジンオイルの中でも、現在最上級グレードの「SP」に今回クローズアップしてみたいと思います。


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●エンジンオイルとは

 車のエンジンは、一般的に「吸気工程→圧縮工程→燃焼・膨張行程→排気工程」を繰り返す事で動力を発生させています。エンジンがこの工程を繰り返す為に、驚くべきべき数の部品で成り立っており、その数は約1万点にも上ります。

 この1万ものパーツ達が組み合わさって機械的な動作を行いますが、パーツ同士(金属同士)が直接当たると摩擦や熱が生じて円滑に動く事が出来ません。その為、エンジンオイルでパーツの表面に薄い油膜を作り、パーツ同士が直接触れない様にします。オイルがパーツ間を循環し摩擦を減らす事でスムーズな動きを保ちます。ここに使われているオイルがエンジンオイルです。

 エンジンが動いている間、パーツ達は休む事無く強い摩擦や振動に晒されています。エンジンオイルが循環してくれているお陰でパーツ達は保護されて、焼き付けを起こさずに動き続ける事が出来ます。

 次の項目で起筆しますが、エンジンオイルには潤滑以外にも大切な働きが有り、そのどれが欠けてもエンジンの性能を発揮する事は出来ません。それ程にエンジンオイルは必要不可欠な存在なのです。メンテナンスを怠ると、最悪の場合はエンジン自体を交換しないといけない程状態が悪化したり、走行中いきなり停止して大きな事故に繋がってしまう事もあります。では次にエンジンオイルの役割について起筆したいと思います。

エンジンオイルの役割

 過酷な環境下からエンジンを守る為に、エンジンオイルには5つの役割があります。

潤滑作用エンジンは金属の部品で構成されています。潤滑油(エンジンオイル)が無いと、パーツ間の摩耗や熱でエンジンが焼き付けを起こしてしまいます。これを防ぐ為にエンジンオイルは欠かす事が出来ません。
密封作用エンジン内部のピストンとピストンリングと呼ばれる部品には隙間があります。 この隙間は、エンジンオイルによって密閉されガスが抜けるのを防いでくれます。それによりエンジンのパワーを保ちます。車は長く乗っているとパーツが摩耗しますので気密性を維持する事が難しくなってきますが、エンジンオイルを定期的に交換する事で密封効果を維持させる事が出来ます。
冷却作用エンジンが稼働すると熱が発生します。このエンジン内部の熱を吸収・冷却しエンジンがオーバーヒートするのをエンジンオイルが防ぎます。 熱を吸い取ったエンジンオイルは一旦エンジン下部のオイルパンに蓄積され、温度が下がると再びエンジン内部を循環して冷却機能を維持しています。
洗浄作用エンジン内部に発生した不純物(スラッジ)等を取り込み、エンジンの内部を綺麗に保ちます。汚れ等を取り込んだエンジンオイルは黒く変色していきます。
防錆作用運転中エンジン内部は非常に高温になります。外部との温度差で内部に水分が発生し錆の原因になります。エンジンオイルがパーツをコーティングする事で錆の発生を防いでいます。

エンジンオイルの種類

 エンジンオイルは大きく分けて、ガソリンエンジンオイルとディーゼルエンジンオイルに分ける事が出来ます。ここから更に以下の様に別れていきます。

 上表は簡易図になります。一言でオイルと言っても様々有り、目的に合ったエンジンオイルを使用するのが車にとってベストです。例えばコンパクトカーと、排気量の大きいスポーツカーとでは使用するエンジンオイルは違います。車種の他にも、使用条件等でも違ってきます。エンジンオイルはベースオイル80%に+20%の添加物で構成されています。どの様な添加物がどれくらいの割合で配合されるかによって、オイルの特性が変わってきます。ガソリンエンジンオイルとディーゼルエンジンオイルも基本の成分は一緒ですが、添加物が違います。

エンジンオイルの規格

 エンジンオイルは、車のエンジン性能をフルに発揮してくれるもの、その車に合ったエンジンオイルを選ぶ必要があります。例えば、以下の取扱説明書のエンジンオイルの部分を見ると、「SAE 0W-20」と記載されています。一般的に「0W-20」を推奨オイルとしているのは、ハイブリッドカーやコンパクトカー、軽自動車、ミニバン等です。粘度がやわらかなサラサラのオイルです。

 現在流通しているエンジンオイルは、粘性(粘度)と品質(耐熱性や耐摩耗性等)によって規格が決められています。温度変化に対する耐久性と潤滑油としての性能を示す尺度になっています。「性能を示す尺度」と言っても、数値が高いから良いという事では無く、車種や走行環境(条件)等によって選択する事が大切です。

【マークの中にあるSAEとは】
SAE=Society of Automotive Engineers(米国自動車技術者協会)の略です。
自動車に関連する専門家が集まったアメリカの非営利団体で、ここで制定した基準に従って、オイルの粘度を分類したものをSAE粘度グレードと言います。

 日本で使用されているエンジンオイルの品質規格は「API規格」「ILSAC規格」「JASO規格」の3つになります。

API規格 (エー・ピー・アイ)アメリカ石油協会が定めた石油に関する規格の総称です。 ガソリンエンジン向けは「S」。ディーゼルエンジン向けは「C」から始まるアルファベット2文字で品質表示されています。ガソリン・ディーゼル両方に対応している場合は「S○/C○」と表記される。日本ではガソリンエンジン向けの規格として浸透しています。 現在ガソリンエンジンはSAからSP迄13段階、ディーゼルエンジン向けはCK-4が最新規格になります。
ILSAC規格 (イルサック)日米の自動車工業会(JAMAとAAM)が1993年に設立した組織。自家用自動車のエンジンオイルについて定めた規格で、従来のAPI規格に省燃費性能の評価を追加したのがILSACです。「GF-」から始まる表記で後ろに数字が付く。数字が大きくなる程、省燃費性能が向上しています。
JASO規格 (ジャソ)日本国内の独自規格で、日本自動車技術会規格」の略になります。特にディーゼルエンジンオイルの規格をけん引する存在。他にも二輪車用2サイクルエンジンや4サイクルエンジン油の規格細分されている。ディーゼルエンジン用の表記には「D」から始まる2文字のアルファベットと数字が組みあわされている。

 上記に「5W-40」と表記されています。低温粘度と高温粘度が併記されているのですが、これをマルチグレードと言います。シングルグレードと言うのも有るのですが、昨今はマルチグレードが一般的です。

 余談ですが、子どもの頃に見た「Mobil 1」のCMを思い出してしまいます。「バナナで釘が打てます。新鮮なバラもこの通り」あれエンジンオイルのCMだったんですねぇ。化学合成エンジンオイルの代名詞とも言えるMOBIL-1ですが、低温時の強さ、エンジン回転時の滑らかさなんて子どもの頃は解りませんでした。

エンジンオイルのグレード

 エンジンオイルには複数の規格がある事は前述しました。米国の規格(API規格)、日本の規格(JASO規格)、米国+日本の規格(ILSAC=API規格+省燃費性能)、他にも欧州の規格(ACEA規格)、国際規格(Global規格=ディーゼルのみ)等もあります。「ややこしいなぁ~、規格統一してくれたらいいのに」とちょっと思ってしまいますが、これは現代社会が色濃く反映された結果です。

 環境破壊や気候変動等の問題が顕在化し、排ガス規制等が進むようになりました。自動車産業(自動車産業以外もですが)は持続可能な産業として変わっていく必要が有り、その中で自動車に関係するメンテナンス品も改良が進められてきました。各国で法律や規制が整備され、世界中で取り組みが実施される様になりましたが、規制基準や進度、使用環境が各国(地域)で違う事から、別規格が生まれ運用される様になりました。とは言え、厳しい規格基準をクリアしている事、その規格は国際的な枠組みで整合性が取れている事が大切な事には変わりありません。

 オイル缶にはドーナツマーク(APIのサービスシンボル)が有り、オイルのグレードが解る様になっています。最新のグレードである「SP」を含めて、エンジンオイルには現在13段階ものグレードがあり、エンジンオイルに必要な性能(省燃費性や耐熱性等)が定められています。 13あるグレードの内、SH以前の規格は廃止され、現在一般的に使用されているのは「SL」「SM」「SN」「SP」の4種類になります。

API規格制定年度規格の特徴ILSAC
SA ベースオイル。添加物無し 
SB 最低限の添加物(分散剤)のみ配合したオイル。 かじり防止、参加安定剤の機能が改善。 
SC1964年デポジット防止性、摩耗防止性、錆止め性、腐食防止性が追加されたオイル。 
SD1968年SCより高性能 
SE1672年SDより高性能 
SF1980年SEの性能にプラスして酸化、高温デポジット(堆積物)、低温デポジット 防錆・防腐効果が向上したオイル。 
SG1989年SFの性能にプラスして動弁系の耐摩耗性、酸化安定性が求められ、エンジン本体の長寿命化に繋がる。耐スラッジ性が向上。 
SH1994年SGの性能にプラスしてスラッジ防止性、高温洗浄性が向上。GF-1
SJ1997年SHの性能を更に向上させると共に、蒸発安定性能、せん断安定性が向上。GF-2
SL2001年SJの性能にプラスして省燃費性能向上(CO2の削減)、排ガス浄化(CO、HC、NOXの排出削減)、オイル劣化防止の向上(廃油の削減)したオイル。GF-3
SM2004年SLの性能にプラスして、浄化性能、耐久、耐熱、耐摩耗性が向上GF-4
SN2010年SMの性能にプラスして、省燃費性能持続、触媒保護性能が強化。低温流動性が向上した事で参加に強い。GF-5
SNPlus2018年SN+LSPI対策 ※LSPI=低速早期着火(ロースピードプレイグニッション)  エンジンオイル内に含まれるカルシウムが原因で、燃焼室内で  通常より早いタイミングで着火起こる。これが原因で不完全燃  焼やノッキングを起こす。
SP2020年SNPlus+チェーン摩耗対策、省燃費性能、耐スラッジ性が向上GF-6  ※(GF-6A)  (GF-6B)

 SL以降、省燃費性や排ガス浄化、オイル劣化の防止等、様々な効果が付帯されてきましたが、この「SP」は今迄のオイルと何が違うのでしょうか?

API規格の最新グレード「SP」は、ILSAC規格の「GF-6」に相当します。
GF-6A 従来型のエンジン向け (0W-20、0W-30、5W-20、5W-30、10W-30)
GF-6B 省燃費型エンジン向け (0W-16)

ガソリンエンジンオイルの中で最新のグレード「SP」が誕生した背景

 車の進化と共に、メンテナンス品(消耗品)も進化してきました。エンジンオイルも然りです。「SP」は10年ぶりの新規格として、2020年度に制定されました。現在API規格の最新グレードのエンジンオイルになります。

 世界的課題である地球温暖化防止(温室効果ガス削減)の為、自動車メーカーでは燃費の向上は喫緊の課題となっています。勿論エンジンオイルにも無関係では無く、省燃費性能について強く求められる事になりました。そんな中、次世代を担う高性能ガソリンエンジンオイルとして新グレード「SP」は誕生しました。

「SP」の特性、求められる性能

 一度は耳にしたことがある「エコカー補助金制度」「エコカー減税」「グリーン化特例」等。その甲斐あってか、次世代自動車の販売台数は右肩上がりです。

国土交通省 経済産業省「EV/PHV普及の現状について」より

 車の電気化が進めばエンジンオイルは要らなくなるのでは?と思われるかも知れませんが、世界的に見ればまだまだ主流はエンジン車になります。(下グラフ内 ICE=エンジン車)

国土交通省 経済産業省「EV/PHV普及の現状について」より

 実際の所、HEV(ハイブリッド車)もPHEV(プラグインハイブリッド車)も発電にはエンジンが使われます。EV(電気自動車)はモーターを動力として走行しますが、トルクを合わせる為に減速機が搭載されています。減速機のギヤや軸受けを保護する為に潤滑油が使用されていますので、EV車の割合が増えたとしても、潤滑油の需要は無くなる事はありません。逆に燃費性能向上の為には欠かせない存在として、益々その性能は重要視されていくでしょう。

 この様に、自動車を取り巻く環境は世界規模で変化しています。エンジンオイルにもあらゆる性能が求められる中、市場の要求に応える為に生まれたのが、高性能ガソリンエンジンオイル「SP」グレードなのです。次にその特長を見てみましょう。

 SN (GF-5)SNPlus  (GF-5)SP (GF-6)
LSPI×
タイミングチェーン摩耗××
省燃費性能
耐エンジンスラッジ
ピストン清浄性
酸化安定性
LSPI(新油のみ)LSPI=低速早期着火(ロースピードプレイグニッション)とは、エンジンオイル内に含まれるカルシウムが原因で、燃焼室内で通常より早いタイミングで着火が起こる異常燃焼の事を言います。これが原因で不完全燃焼やノッキングを起こします。 LSPI防止性能を評価するテストで5回以下に抑えないと合格しません。
タイミングチェーン摩耗省燃費化が求められる中で、直噴ターボエンジン(小さいエンジンで大きな出力を得られる)が増えました。この事によりチェーンへの負荷が増大する、オイルの中にスス(カーボン)が混入する量が増える、高圧で噴射された燃料が燃えずに残り、エンジンオイルの粘度を低下させる等、省燃費化はタイミングチェーンの摩耗が大きくなるトラブル要因ばかりでした。 ベースオイルに摩擦低減剤(添加物)を組み合わせる事で、タイミングチェーンの摩耗を減らす事が出来ます。SN規格の時より摩耗を半分程度に抑える事が出来るのがSP規格のオイルです。
省燃費性能  SP規格の中でも「GF-6」は潤滑性能と耐摩耗性を改善する事で省燃費性能が安定して伸びます。なオイルと比較して3.5%以上燃費が向上しないと認められません。 SP規格の中でも省燃費性能を補償するRC性能が付与されたエンジンオイルは環境にも車にも優しいオイルになります。 ※RC=リソースコンサービング(Resource Conserving)
耐エンジンスラッジスラッジとはエンジン内部に溜まった燃えカス(スス)や汚れの事を言います。大きくなったスラッジは潤滑不良を起こし、摩耗が大きくなります。 清浄分散剤(添加物)が添加される事で、スラッジ同士が固まらない様に働き、大きくなるのを防ぎます。グレードの高いエンジンオイルはしっかりとスラッジを包み込み、フィルターの目詰まりを抑制してくれます。結果として、フィルターの寿命が長くなります。
ピストン清浄性エンジン内部のピストンリングは、エンジンオイルを適度に保ち、油膜をちょうど良い具合に残してくれます。しかしエンジンオイルが汚れて来るとピストンリングに汚れが付着し、気密性が低下します。エンジンを保護し、出力を維持する為には、高い清浄性でデポジット生成を抑制すると共に、ピストンリングランド(トップランド)・リング溝を清浄に保つ事が大切です。またオイル消費の低減を可能にします。
酸化安定性オイルが高温になると、酸化して粘度が上昇する為、高温時の酸化安定性を向上する事で、今迄以上にエンジンオイルの劣化を防ぎます。粘度が安定する事で過酷な状況下からエンジンを守ります。

 この様に、SPは何かだけが良いという事ではなく、「SN」と比較して総合的に性能が向上した高いレベルのエンジンオイルと言えます。

 TVで普段耳にする「地球温暖化防止(温室効果ガス削減)」は、目標の見直しが何度も行われ、自動車の製造だけでは無く、整備や資材などあらゆる分野に波及しています。各メーカーの取り組み、次世代自動車の普及、エコドライブの促進はどれも地球温暖化対策の取り組みの一環です。

 車体の軽量化やハイブリッド化と共に、エンジンは燃費率の向上と摩擦損失の低減という喫緊の課題を担っています。故にエンジンオイルには高性能が求められ、自動車の省燃費を実現する為に、エンジンオイルの低粘度化は急速に進んでいます。

 エンジンオイルの低粘度化は、燃費や低温始動性の観点からはメリットなります。ですがエンジン部品の摩耗やオイルそのものの消費という観点からはデメリットになります。しかし燃費向上(省燃費性能)のエンジンオイルは低粘度であっても、摩耗や破損が起きない様に設計されています。

 エンジンの開発とエンジンオイルの開発はまるで無限ループの様です。こうやってSPの事を書いている間にも次のグレードの開発が進んでいる事でしょう。

まとめ

 どんなに良いエンジンオイルも使えば必ず劣化します。「高価なエンジンオイルを使用していたらオイル交換は時々でいい?」「ちょっと高粘度にしてみよう!そしたらエンジンの保護になるだろう」はやっぱりちょっと違っていて、メーカーが推奨するエンジンオイルを使用するべきですし、値段が高かったらオイル交換は時々でいいという事もありません。

 ベンツやBMW等では、オイル交換の目処が15,000㎞何て数字を耳にしますが、ヨーロッパと日本では自動車の使われ方が違います。日本メーカーの自動車はメンテナンスフリー化が進んで長期間使用可能な部品が増えたとも言われます。それでもエンジンオイルの交換は別物です。

 メーカー等が推奨する交換のタイミングが長くなっている事は事実ですが、あくまで推奨に過ぎません。車種や使用状況等環境によっても変わってきますし、エンジンへの負担を考えると早めの交換が、エンジンを労る事になります。結果としてエンジンの持つ本来の性能を維持する事になります。大切な事はオイル交換を怠らない事です。

 

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